・武漢艾可亜人材諮詢有限公司
                                                                                                                  「世界一の外貨準備高」をバックに中国の「日本経済丸ごと買収」が動き出す。
                                                                                                                  「世界一の外貨準備高」をバックに
                                                                                                                  中国の「日本経済丸ごと買収」が動き出す。

                                                                                                                  sapio.photo2.jpg今年6月末の中国人民銀行(中央銀行)発表によれば、中国の外貨準備高は日本の9135億ドルを大きく上回り、1兆3300億ドルで、世界第1位である。さらに今年3月、中国政府は、世界一の保有高を誇る外貨をもって対外投資を目的とする「中国投資有限責任公司」の設立を発表した。中国企業による日本企業の買収はすでに始まっている中、政府主導によるチャイナマネーの海外進出が本格化しようとしている。中国企業の頭の中身、海外投資の目的を、上海を拠点に長年、日中間の投資コンサルタントを行ってきたアクアビジネスコンサルティング代表の高田勝巳氏がレポートする。

                                                                                                                  本稿執筆中の8月20日のことである。中国全土で事業展開をしているある小売関連の中国企業から飛び込みで面談依頼があった。早速上海の事務所で面談すると、某上場企業の事業開発部長で年齢は40歳前だろうか。今後中国全土で本業以外の新規事業展開(サービス業)をするに当たり、日本からの技術とノウハウを導入したいので手伝ってくれないかとのことである。資金は全て彼らが出すとのことだった。

                                                                                                                  相手にもよるが、会社によっては出資を求めるかもしれませんよと問うと、中国の事情をわかっていない日本の企業に口を出されたくないので、できたら出資は受けたくないとの回答。早速、弊社東京事務所のコンサルタントに連絡をして、私がピックアップした日本企業に主旨を伝えると、先方の社長の反応は、「いつかはそんなこともあると思っていました。技術、ノウハウだけでなく、会社まるごと買ってくれてもいいですよ」との回答で早速、社長自らが会ってくれることになった。まさか、私もそんな展開になるとは思わなかったが、これが、日本と中国の経済の現場でここ数年起こり始めている風景である。

                                                                                                                  中国が、そして中国企業が経済力をつけてくるに従い、いろいろな形で日本進出を検討する企業が増えるのは自然な成り行きである。とはいえ、2005年末の統計で見る限り、日本からの対中投資残高が2兆8965億円に対し、中国の対日投資は約120億円と241分の1の額に過ぎない。香港経由の投資や、中国政府の許可を経ていない民間の投資が含まれていないとはいえ、余りにも少ない金額だ。

                                                                                                                  06年こそ、ニューヨークで上場している大手太陽電池メーカー、無錫サンテックが日本の太陽光発電システムメーカー、MSKを買収し、同年の投資額が1億700万ドル(約120億円)とそれまでの残高に迫る金額となったが、それでもまだ緒についたという段階である。

                                                                                                                  古くても日本の技術、人材が欲しい中国企業
                                                                                                                  sapio.photo3.jpg 中国企業による日本進出の目的と背景は、2点である。
                                                                                                                  1点目は日本の技術と人材の獲得。1980年代から始まった対外開放、外資導入による日中合弁会社から日本の技術がもたらされた。だが、当時の合弁企業は失敗事例が多く、最近では中国側も敬遠するくらいであり、少なくとも、現状では技術導入の有力な手段とはなっていない。とはいえ、中国の家電メーカーなどが、現在の技術力を有しているのも元はといえば日中合弁から発生したものも少なくないはずである。では、資本提携を伴わない技術導入はどうかといえば、日本側がロイヤルティの支払と技術の漏洩を心配してなかなか本格的な動きにはならないのが現状である。

                                                                                                                  一方、中国経済を支える輸出産業は、人民元の切り上げ圧力が強まる中で、技術力向上によって品質を高めないとグローバルな市場で淘汰されるリスクを認識し始めている。

                                                                                                                  たとえば、上海でプラスチック加工機械を製造する日系メーカー、川田上海(螢ワタ100%出資現地法人)によると、中国地場企業向けの市場では、これまで2分の1、3分の1の価格の中国メーカー制に取られていたが、最近は高くても品質を維持するためにということで、同社制が見直されているとの事である。 また中国国内向けの製品で巨大なニーズがある分野では日本の最先端ではなくなった技術でも欲しがる中国企業は多い。上海電気集団による茨城県の工作機械メーカー、池貝買収もこの範疇であろう。

                                                                                                                  日本人技術者を中心とした、人材の獲得にもかねてより熱心で、家電大手のハイアールや地場独立系自動車メーカーとして最近注目されている奇瑞自動車(Chery)の場合、ある工場の工場長はドイツ自動車メーカー出身のドイツ人、その隣の工場の工場長は三菱自動車出身の日本人である、と地元政府関係者が語った。

                                                                                                                  つまり、中国企業の下地として、日本の技術、技術者に対する強いニーズがあり、これまでの合弁、技術導入、人材導入だけでは、グローバルな発展を志向する中国企業のニーズに応えられなくなっているということだ。その結果、直接、日本企業を買収したり、日本に拠点を築いて人材を確保するということは極めて自然な流れといえる。 2点目は日本市場の獲得である。世界第2位の経済大国日本の市場は、中国企業にとっても無視できない。ソフトウエア開発のアウトソース獲得を狙った中国の大手開発会社、方正、北大青鳥、用友なども日本へのサービス輸出で、日本市場を狙っている。また、昨年3月には、中国の大展集団が日本のソフトウエア開発のアウトソース会社、グローバルフレンズネットワーク社を買収したと発表したが、これは日本に現地法人を作るより直接企業を買収した方が早いとの判断からであろう。

                                                                                                                  日本における開発人材の確保が年々難しくなってくるなかで、こうした動きはこれからもますます進展するであろう。最近は、中国人開発要員を日本の開発会社に派遣、仲介する業務にも力を入れている。同じソフトウエアでもキングソフトは、自社開発のセキュリティソフト、オフィスソフト、オンラインゲームを日本市場向けに販売、運営するという意味で上記アウトソース志向の会社とは違った動きを見せている。

                                                                                                                  その他、アパレル関連、医薬関係、物流・運輸、飲食関係での日本進出の事例が見られる。医薬関係では山九企業集団が富山の東亜製薬を買収したが事例が有名であるが、その後は際立った動きは聞いていない。2〜3年前に中国の大手製薬会社が日本の製薬会社を買収したいということで、その企業と日本の製薬会社を回ったことがあるが、当時まだ中国側の戦略が不明確であったのと、日本側の警戒感が強かったこともあり、丁重にあしらわれたという感じであった。

                                                                                                                  しかし、最近では、以下に述べるマクロ的な観点からの中国対外投資に勢いがつく中で、中国医薬業界も、以前にもまして対外投資の志向を強めている。今回、前述の中国大手医薬会社の役員にヒアリングしたところ、研究開発分野及び中国市場でも有望と思われる既存の医薬を有している外国医薬会社に的を絞り、買収も含めた動きを具体的にしているとのことであった。

                                                                                                                  研究開発をまず第一に挙げたのは少し意外であった。2〜3年前に日本の医薬ベンチャーとの提携を持ちかけたときは、資本投入して必ず市場で売れるような条件でないと興味を示さなかった。リスクをとって新薬を開発することをしない限り世界のメジャープレイヤーにはなれないはずで、そのことを改めて認識したのか、それとも、単に資金的に余裕が出てきたのか、今後の動きを見れば分かってくるであろう。

                                                                                                                  “摩擦”を糧にする中国の図太さ

                                                                                                                  sapio.photo1.jpg 最近の中国における海外投資“熱”はマクロ的に見ると、そうせざるを得ない状況下にある。実質的に国家が管理している人民元相場を切り上げていかなければならないなかで、貿易黒字と外国からの直接投資の増加で外資準備高は増える一方だ。今年6月末の中国の外貨準備高は、1兆3300億ドル。日本の9135億ドルを上回った。

                                                                                                                  中国の輸出産業が稼いだ外貨は、今年7月まで、外為法の関係で原則全て人民元に変換しなければならない状況が続いた。(8月から変換は必須ではなくなったが、明らかな人民元高が予想される中で誰も必要以上に外貨を持とうとはしない)。外国からの直接投資は外貨での保有が原則となるが、外国から設備でも買わない限り最終的には全て人民元に交換され、売られた外貨は基本的に全て中国人民銀行が吸収する形となる。中国人民銀行としても、外貨と交換に人民元を放出するうちの相当部分がマネーサプライの増加となり、これが現在中国の過剰流動性、株高、不動産高の背景となっているわけだ。

                                                                                                                  こうしたなかで、今年3月、中国政府は、外貨準備を原資として対外投資を目的とした国策投資会社、中国投資有限責任公司(China Investment Co.,Ltd.,以下「中国投資」)の設立を発表した。9月に営業を開始する予定で運用資産は2000億ドルとなることが決まっている。また、「中国投資」設立発表後の5月には、上場を控えた米国のヘッジファンド、ブラックストーングループへの30億ドル出資を発表、世界を驚かせた。

                                                                                                                  中国の外貨準備は、これまで日本と同じく米国債と政府機関債に集中してきたが、人民元高が続く中で人民元ベースでは逆ざやとなっており、この逆ざや解消と外貨準備の吸収を目的として中国投資が設立されたわけだ。投資先は、地域別では、アジア、アフリカ、中南米など、業種別では、鉱業、インフラ、製造業が有力視されている。この中国投資が呼び水となり、中国企業の対外直接投資が加速する可能性があり、いまから投資先(国)との摩擦を心配する向きがある。

                                                                                                                  だが、今すぐに中国の資金が大挙して上陸することは想像しにくい。今後、中国バブルが少し冷める、あるいは崩壊し皆の頭がより冷静になってくれば、より真っ当で、より成熟したビジネス感覚で日本への進出を本格化させる企業が増えてくる可能性がある。それは大いに歓迎すべきことだ。中国企業の進出により、日本の技術と人材の流動化が進めば、日本経済の活性化ともなる。反面色々な摩擦も増えるだろう。しかし、そうした摩擦を超えてこそ、グローバルな世界で生き残ることができるということを中国が証明している。

                                                                                                                  1980年代初頭からの対外開放、外資導入だ。外国人と接したことの無い中国企業と日本企業を無理やり政略結婚させ、大きな摩擦の中で、多くの失敗の対価も払いながら、現在の世界の地位と工場を買い取ったのである。相手を自分の懐に引き入れて、それでも主体性を失わない高等戦術である。このくらいの図太さがないとこれからの世界では生きてゆけないのである。

                                                                                                                  【SAPIOの9月26日号に掲載された文章です。】


                                                                                                                   
                                                                                                                  CMSならドリーマASP